Insight
広告規制の緩和や海外進出の加速など、大きな変革期を迎えているJ-Beauty(日本の化粧品市場)。基礎化粧品を中心に世界トップクラスの品質や安全性、技術力を誇る一方で、「言いたいことが十分に伝えられない」というもどかしさを抱えるメーカーも少なくありません。
今回は、日本と韓国の双方の市場に精通し、グローバルな視点で美容業界を見つめる金城煥氏にインタビュー。K-Beautyの最新動向や、J-Beautyがグローバル市場で勝ち抜くための条件について詳しく話を伺いました。
ユーグレナ 上席執行役員 ヘルスケアカンパニーCEO
ロート製薬、ファーストリテイリング、楽天を経て現職。ユーグレナのヘルスケア事業を統括。愛称は「ふぁな」。
――日韓両方の市場を見てこられた金さんは、現在の国家戦略としてのJ-Beautyの動きをどのように捉えていますか?
金氏(以下、金):
結論から言うと、非常にポジティブに見ています。私自身も忖度なしに基礎化粧品は日本のものを使っているのですが、日本の強みである圧倒的な品質や安全性、文化価値などを世界標準の評価軸で、きちんと発信していくための絶好の転機であり、チャンスだと捉えています。
――海外市場と向き合う中で、具体的にどのような点がポイントになってくるのでしょうか?
金:
「日本製品はいいものだと言われるけれど、何がいいのか効果がよくわからない」という海外での認知を変えていく必要があるなと思っています。そのためには、規制をただ緩めるのではなく、「ここまで検証した」という科学的な数値やエビデンスを、透明性のあるルール設計のもとで出せるようにすることが重要です。
日本企業には、決められたルールの中でも最大限にやり遂げるという文化的な部分にも親和性があります。日本産・日本製の高い基準の規制をしっかりとクリアしていること自体が、J-Beautyの強力な競争力になっていくはずです。
――直近で参加された韓国の展示会(イン・コスメティクス・コリアなど)でも、K-Beautyの変化を感じたそうですね。
金:
はい。以前はSNSの力で派手に訴求するような側面もありましたが、海外では臨床データに基づく数値訴求が主流となりつつあり、K-Beautyでも素材やエビデンスの強化へと急速に舵を切っています。今年の技術アワードでも、微生物の力やインナービューティー関連の素材が受賞していました。
素材の豊富さや安全性において日本は世界一だと自負していますが、韓国も臨床や研究に力を入れ始めています。彼らの研究がさらに蓄積される前に、日本が持つ本質的な強みを伝える基準をしっかり作ることが急務だと感じています。
――日本の現場の皆様からは、どのような課題が聞かれますか?
金:
一番は「技術や研究を持っていても伝えられない」という歯がゆさですね。韓国などは、ある程度認められた表現の幅の中でうまくアピールし、それをSNSの拡散からEC・リアル店舗の購買へと繋げる導線づくりが非常に上手です。
一方、日本はそもそも言える範囲が狭く、SNSでの拡散や店舗への誘導が分断されてしまっている。メーカーがどこまで発信していいのかの基準を明確にしてもらうことと合わせて、メーカー自身も発信する力をつけていく必要があります。
――SNSやAI時代を踏まえると、どのような制度設計やルールが必要だとお考えですか?
金:
キーワードは「信頼性」と「安全性」です。情報が溢れ、AIが情報を選択する時代だからこそ、誤認を防ぐための情報の透明性と、科学的根拠に基づいた表現のバランスが求められます。
「ここまで検証していれば、こういう表現をしていい」という明確なエビデンスレベルの可視化や、専門家・第三者による客観的な裏付けがクリアになるルール作りが、これからの勝ち筋になるのではないでしょうか。
――国家戦略産業としてJ-Beautyを発展させていくには、どのようなアプローチが必要でしょうか?
金:
「制度」「研究」「司令塔」の3つに分けて整理しています。
被験者数や評価期間、評価フォーマットなどの標準化・統一化。そして「科学的根拠に基づき数値を明記できる」という明確な訴求基準の整備。
日本企業が長年深く掘り下げてきた基礎研究や成分、バイオテクノロジーの成果を、国際基準で正しく評価・発信できる仕組みの見直し。
経済産業省、厚生労働省、消費者庁などに跨る課題に対し、韓国のように国が主導して組織を横断し、輸出や展示会などのサポートを強力に引っ張っていくリーダーシップ(旗振り役)の明確化。
この3つが揃って初めて、信頼性と表現力を両立できる制度設計が実現できると考えています。
――最後に、J-Beautyの独自の強みや、今後どのように魅力を発信していきたいかお聞かせください。
金:
日本が培ってきた基礎研究や繊細な処方設計、品質や安全性の高さ、そしてインナービューティーや微生物を活用した技術の蓄積は、日本の揺るぎない強みです。さらに最近では、クッションファンデーションやニードル製品のように、既存の技術や美容以外の異業種(例えば文房具のペンの機構など)の技術を掛け合わせる「着眼点の展開」も、大きなイノベーションを生むポテンシャルを秘めています。
ASEAN市場などを見ても、日本の技術力に対する信頼は根強くあります。規制の見直しによってグローバルにその強みが正しく言えるようになれば、J-Beautyのポジションはさらに強固なものになります。成分や機能価値だけでなく、地球環境やサステナビリティといった倫理観まで統合したブランド設計を築きながら、日本が持つ本質的な研究の深さを世界に届けていきたいですね。
「良い技術はあるのに、うまく伝えられない」――そんな日本の歯がゆさを突破するには、ルールの明確化とメーカーの表現力のアップデートが欠かせません。
大きな変化を迎えている今こそ、J-Beautyがグローバル市場でさらに存在感を高めるチャンスと言えそうです。
文/金子麻衣