Insight
人気ヘア&メイクアップアーティストの千吉良(ちぎら)恵子さん。
長年、女性ファッション誌やビューティー誌、広告撮影など、日本のビューティー界の第一線で活躍しています。今回、自身がプロデュースする新コスメブランド「ifoo(イフウ)」も立ち上げた千吉良さんにインタビュー。
数多くのコスメ商品に触れてきたプロフェッショナルの立場から、国内のビューティー市場の現状やJ-Beautyの可能性、そして新ブランドに込めた想いについてたっぷりと伺いました。
ヘア&メイクアップアーティスト
雑誌、広告、ビューティー企画など幅広い分野で活躍するヘア&メイクアップアーティスト。トレンドを取り入れながらも、その人らしい魅力を自然に引き出すメイク提案に定評がある。大人の肌を美しく見せるベースメイクや、品のある血色感・透明感づくりにも精通している。
――普段のお仕事でさまざまなコスメを取り扱う中で、J-Beautyの魅力はどんな部分にあると思いますか。
日本のコスメというのは、世界的に見ても信頼性がとても高いですよね。メーカーの厳しい品質基準や研究開発体制などもあって、「日本のコスメなら安心」というイメージが浸透しています。
実際に仕事でも、とくにファンデーションは日本の商品をよく使っています。微妙なトーンの違いだけで何種類ものカラーが展開されていて、より細やかにベースメイクを表現できるからです。湿度など日本の気候に合わせて、崩れにくさなども緻密に計算されている。ユーザーの声を生かした、かゆいところに手が届く商品が多いのも、日本ならではだと思います。
――最近の日本のビューティー市場の変化について、どのような印象を持っていますか。
一般の女性のメイクのスキルがすごくアップデートされていますよね。大きな影響としては、やはりYouTubeやTikTokなど動画の登場でしょう。こういうテイストにするにはシャドウをどう入れたらいいかとか、今は検索すればすぐに具体的な方法がわかるようになりました。
昔はわれわれプロでも、世界のトレンド情報を手に入れるのは非常に大変だったんです。それこそ、海外で発売されてから半年遅れで日本に入ってきたモード誌を買って、自分なりのヘアメイクをどう提案するかを一生懸命考えていました。だけど現代は、世界とのタイムラグなく、誰でも瞬時に最新の情報を知ることができる。時代は大きく変わったなと思いますね。
実際の女性たちのメイクも、なりたい自分や着る服に合わせて、その日その日で違うスタイルを楽しむというように、すごく自由で多様化していると感じています。
――そういう時代に、プロのヘア&メイクアップアーティストとして大切にしたいことは何ですか。
私はとにかくメイクが大好きで、その気持ちでずっと全力で仕事に向き合ってきました。今は改めて、メイクを通じて幸せになる、前向きになる、そこを伝えていくのが自分の使命なのかなと感じています。
最近はありがたいことに、私が得意とする、「多幸感のあるメイク」に関心を持ってくださる方が増えていて。メイクって、「自分で自分に魔法をかける力」があるんです。例えば、なんか今朝は調子悪いかなと思っても、チークを入れただけで「あ、今日も頑張れそう」という気がしてくる。
ほんのちょっとの違いで、印象も変わるし、気分も変わる。失敗したってクレンジングで落として、またチャレンジしたらいい。そういうところもメイクの魅力だと思います。

――2026年4月にデビューした新ブランド「ifoo」でも、メイクの楽しさ、気軽さを提案していますね。
以前から、自分のブランドを作りたいという構想はありました。「ifoo」というブランド名にはいくつかの意味を込めていて、1つは、「もしも〇〇だったら(if…)」とか、なりたい自分に近づけるコスメ。もう1つは、風のように、自分に自信がないときに寄り添ってそっと背中を押してくれるコスメ。あとは、私の愛猫の「ふう」という名前もかかっています(笑)。
――商品の特徴やこだわったポイントを教えてください。
このブランドは実は、私自身の“if…”でもあります。長年ヘアメイクの仕事を続けてきた中で、「こんなアイテムがあったらもっと簡単にメイクができるのに」と感じた経験が、アイデアとして詰め込まれています。誰でも厚化粧にならず失敗しない、簡単に毎日のメイクが楽しめる――それが「ifoo」のコンセプト。また、なるべく気軽に試してもらえる価格設定も意識しました。

ファンデーションはスティックタイプにしたのですが、これには理由があって、プロの私でも毎回同じ厚さに仕上げるって難しい。ベースメイクって奥が深いんです。でもこの商品は、直接顔に塗ってなじませるだけ。ベースがうまくいくと気分が上がるし、働く女性の忙しい朝にもぜひ使ってほしいですね。
チークも、つい付けすぎてしまいがちだから、薄づきに仕上がって、なおかつ多幸感が出る質感にこだわりました。それからアイシャドウのパレットは、クリームの部分がハイライターとしても使えるなど、マルチに活躍します。これも程よい薄づきで、粉落ちしにくいしっとりしたテクスチャーになるよう試作を重ねました。
リップは、私自身の肌が非常にデリケートなため、私の唇でも荒れないことが、開発の条件でした。縦ジワが目立たず、鏡を見ずにささっと塗れるのもポイントです。
オンライン販売からのスタートですが、ポップアップストア開催などを通じて、全国のお客様に商品に触れていただく機会を積極的に作っていきたいと考えています。
ifoo公式サイト▶ https://ifoo-make.com/
――今、ビューティー市場ではK-Beautyの勢いが続いています。今回、ご自身のブランドも立ち上げて、改めてJ-Beautyが世界で飛躍するために大切なこととは何だと思いますか。
韓国のコスメは、スキンケアアイテムを中心に、即効性がある成分を使ったり、プロモーションも含めてキャッチーでインパクトがある。スピードも速い。さらに、国の戦略として、K-Beautyをグローバル産業に育てている点も強みですよね。
一方で、日本のコスメはどちらかというと、口コミなどを通じてじわじわ人気が広がるようなブランドが多い。「ifoo」もきっとじわじわ系のブランドになるのかなと。
でも、無理に他の国を追いかける必要はないし、日本には日本のやり方があると思うんです。良い物を作っているのだから、自信を持って世界に届けていけばいい。高品質なのに手頃な価格の商品も多いからインバウンド需要のポテンシャルは高いし、日本らしい繊細な色出しは、アジア圏の女性にもきっと合うはずです。
――薬機法など、日本と海外のルールの違いも、業界の課題として指摘されています。
日本のコスメは品質基準が非常に厳しいからこそ、肌がデリケートな私でも安心して使えています。こういうJ-Beautyならではの信頼・安心は大切にしていってほしい。ただ、今回、自分で商品をプロデュースした際も感じたことですが、広告表現などの自由度については、見直しがあってもいいかもしれないですね。
加えて、国がJ-Beautyを産業としてバックアップする仕組みが整っていけば理想的だと思います。
日本のコスメの魅力を知っているヘア&メイクアップアーティストの1人としても、これからもっとJ-Beautyを盛り上げていくことに貢献できたらと考えています。
取材・文/Kumiko