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J-Beautyを海外へ―― ampuleが所属するトレンダーズ株式会社は、韓国のGlowdayz,Inc.と協業し、日本のビューティブランドの韓国市場におけるプロモーション支援に乗り出しました。 なぜ今、韓国なのか。 日本企業がビューティ大国で成功するためにはどんな戦略が必要なのか。 今回、GlowdayzのCEOであるKong Junesik(以下、ジュンシック)氏と、ampule事業部代表の飯田安紗美氏の対談が実現。J-Beautyのグローバルでの可能性について語り合っていただきました。
――最初に、それぞれの事業内容について教えてください。 飯田 私が代表を務めるampuleは、トレンダーズ内の「美容特化型イノベーションファーム」として、これまで国内市場に向けたマーケティング、コンサルティング業務を行ってきました。今年(2025年)からは海外市場にもチャレンジを広げていて、そのひとつが韓国です。 従来は、日本から海外へとなると中国市場を目指す企業が多かったと思います。しかし法規制などの理由から苦戦するケースも出ており、業界内でも、海外のほかの国にも積極的に目を向けていこうというムードが高まっているのが今の状況です。 ジュンシック Glowdayzは2013年に韓国で創業し、“韓国版@cosme”であるビューティプラットフォーム「GLOWPICK」を運営しています。また、現在は株式会社アイスタイルの100%子会社として、グループのリソースも活用しながら、日本にも多く進出する韓国ブランドのコンサルティングやプランニングを総合的に手掛けています。 これまでの事業活動を通じて、韓国と日本のマーケットの違いや成功のポイントも見えてきました。そうしたノウハウをもとに、日本ブランドの韓国進出の支援事業に取り組んでいるところです。
――日本国内のコスメ売り場を見ても、韓国ブランドの勢いを感じます。その本場に進出して、日本ブランドにチャンスはあるのでしょうか。ジュンシック 韓国の市場規模は日本の3分の1程度ですが、ブランド数は10倍以上と競争密度が非常に高い。かつ、韓国ブランドが圧倒的に強く、海外ブランドが簡単に参入できる市場ではないのは事実です。それでも、条件が揃えばチャンスは十分にあると思います。 韓国市場では、美容成分のCICAやPDRNのようにひとつのトレンドが起こると各社がこぞって似たような商品を出してきます。トレンドが移り変わるスピードもものすごく早い。生活者がそこに疲労感を感じ始めているのです。 生活者だけではありません。韓国の卸業者から当社に寄せられる相談の中には、「韓国ブランドではなく、独自性のある日本ブランドはない?」といった声も結構あって、流通側も同質化した今の売り場を変えたいんだと感じます。そこに全く違う価値を提供し、新しい風を吹き込むことが、日本のブランドに期待されています。
――韓国ブランドと差別化できそうな、日本ブランドの強みは何だと思いますか。飯田 日本の研究開発力や技術力は大きな強みです。アイシャドウなどの粉質の良さや、色に対する繊細な感性もそうですし、昔から長く続いているブランドも多いですよね。また、韓国がプロダクト先行型なら、ブランド全体のコンセプトやフィロソフィーを大事にしているのが日本の良さ。従来のコスメに飽きてきたという韓国の美容オタクの人たちにも、こうした日本独自の魅力はきっと刺さると思います。 ジュンシック 競争が激しい分、上位の韓国ブランドも結構入れ替わっているので、新しいブランドが切り込む余地はあるはず。ただし絶対に忘れてはいけないのは、韓国の市場がどう違うのかや、その違いを生み出している韓国の生活者についてよく理解することです。
――韓国の生活者にはどのような特性がありますか。 ジュンシック 韓国の生活者は、チャレンジを恐れません。新しいものに対して世界で最も反応するし、初めて使う商品への受容度もとても高い。日本の「失敗したくない」心理とは真逆かもしれません。 では、ヘリテージとかラグジュアリーの要素が好まれないかというと、そこにもニーズはある。ただし、それのみでは通用しません。過去に韓国進出に失敗した海外ブランドは往々にして、「我々はこうです」という一方通行のコミュニケーションになっていた。そうではなく、例えば新商品は世界で一番最初に韓国で発売するなど、優位性や新しい物が好きな韓国の生活者の特性に合わせてアレンジしたり、ローカライズするのが大事です。そんな中でも最近、韓国に進出した日本のフレグランス・スキンケアブランドは、自分たちのアイデンティティーや技術力をアピールしつつ、韓国の生活者を理解したメッセージを出したり、ソウルでもトレンド最先端のエリアを選んで出店するなど、戦略としてとてもうまいなと思いました。この流れに続いていけるブランドは、日本にたくさんあるはず。韓国の生活者は何に反応してくれるかをキャッチし、それをマーケティングに溶け込ませられるとよいでしょう。
――2025年2月に、両社の協業で韓国拡販支援事業を開始すると発表しました。具体的にどんな支援を行っていきますか。飯田 日本企業に対して、韓国市場への進出から拡販までのマーケティングプランを提供していきたいと考えています。Glowdayzが運営する「GLOWPICK」はアプリダウンロード300万以上を誇る韓国最大級のプラットフォーム であり、美容オタクの人たちが多く利用しています。美容オタクからミーハー層、マス層へとSNSや口コミを通じてマスに需要が広がっていくというのは韓国も日本と同様なので、会員さんに向けてに向けて新商品の紹介、サンプリング、イベント開催などを行う予定です。 2025年5月には韓国・ソウルで、「GLOWPICK」の会員向けに、日本のコスメブランドのセミナーを開催しました。現地の美容オタクの生の声を聞けたということで参加ブランドの方々からも大変好評だったので、今後も継続的に開催していきたいですね。 このように、韓国のユーザーと直接つながり、率直でリアルな意見を聞けるのが我々の大きな強みだと思います。 ジュンシック 海外進出の初動ミスを防ぐうえでも、生活者が自分たちのブランドのどこに反応するのか、あるいはしないのかをあらかじめ知ることはとても有効です。代理店を選定してあとはそこにお任せ、では成功しません。我々のプラットフォームも活用して、自ら積極的に生活者に歩み寄ってほしい。 韓国からのインバウンド消費についても両社でサポートしていきます。越境ECが普及したとはいえ、日本国内でしか買えないエッジのきいた商品はまだまだあるので、そうした情報をいかに韓国の生活者に届けていくかがポイントです。
――韓国進出を考える日本の企業へメッセージをお願いします。ジュンシック 日本市場でのK-Beautyの攻勢を脅威に感じている方もいるかもしれませんが、だからといって怖がらず、自信を持って韓国市場に挑戦してほしい。条件さえ揃えば、韓国市場で受け入れられるポテンシャルが日本ブランドにはあります。そのチャンスを切り開くためにも、まずはマーケットを理解しようと努力すること。その一歩を我々が全力でサポートします。 飯田 韓国市場、その中でもビューティ分野に精通したGlowdayzさんと、日本企業を数多くサポートしてきたampuleが手を組むことで、韓国進出のためのベストな環境をつくることができました。安心して我々にご相談いただきたいと思います。「届けたい人に届ける」という強い気持ちが大切なのは、日本でも海外でも同じです。ぜひ一緒に、新たな市場へチャレンジしていきましょう。
Junesik Kong(ジュンシック コン) Glowdayz, Inc. CEO 韓国で化粧品クチコミプラットフォーム「GLOWPICK」を運営するGlowdayz社創業者兼CEO。 2013年創業以来、10年以上にわたり韓国の化粧品業界に携わる専門家。 最近はトレンダーズ社と協力し、韓国ブランドの日本進出支援事業を拡大中。 http://www.glowdayz.com/ 飯田安紗美(いいだあさみ) トレンダーズ株式会社・常務執行役員。日本生まれ、ブラジルやタイで生活した帰国子女。新卒でトレンダーズ株式会社に入社。美容業界を中心に幅広い案件のアカウントプランナーとして約7年活動。2018年MimiTVがトレンダーズグループにジョインしたタイミングで同社取締役に就任。2021年にはトレンダーズの美容特化型イノベーションファームである『ampule』を立ち上げ代表に。2024年4月からはトレンダーズ常務執行役員に昇格と、12年間で子会社立ち上げから上場会社役員まで歴任する。
写真/大倉英揮
取材・文/Kumiko
編集/金子麻衣
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